テンセイ
今日僕は死んだ。まあ正確には20時間前に。
息が詰まる衝撃と、大きな音と、眩しい光に包まれた瞬間手のひらサイズの心臓は動きを止めた。予想もしなかったことだが、それは想像していたよりも簡単に特に重要な事でもないかのように起こった。人が死ぬというのはこうもあっけないものなのか。
生きていた(生命体として世界に存在していた)頃実体としていた身体はもはや自分である確信が持てない。
ましてや、自分の死を悼んでくれ涙を流している人への感情や呼ばれている名前への実感が持てない。その人は本当に僕の知り合いなのか、どんな意味を持つ涙なのか。本当に僕はそんな名前だったろうか。
本当に僕はこの世界に存在していたのか。
どんどん薄れて分からなくなる。
生きている人の記憶の中の僕はどんな顔でどんな人間だったろうか。
この世界でもがきながらも生きた意味はあったのか。
総理大臣でも、大統領でも、アイドルでも、社長でも、世界の中心で愛を叫んだわけでもない。とゆうか世界の中心とはどこなのか。
風の香り、空の色、葉っぱの緑、本の歴史のにおい、服の柔らかさ、リモコンの信号、赤の情熱、責任の重圧、車の足音、青の蒼さ。もう何もない。
僕の手は何も掴めなかった。
僕のいない世界は今日も順調に時を刻んでいる。
「本日はお忙しい中、亡き…」
…なんだこれ。
何なんだよ。これ。
別に夢があったわけでもない。叫ぶべき愛があったわけでもない。
でも、でもさあ。僕の人生これで終わりかよ。
愛でも叫んでおけばよかったか。
世界は無理でも東京の真ん中くらいだったらいけたな。
あれ、俺、どんな人生送ってきたっけ?
誰の事を愛してたんだろう。
誰の事憎んでたっけ、
ここ、どこだっけなあ
名前…、なまえ?ナマエってなに、
じぶんは、ここは…暗い、何も分からない…
…息ができない
くるしい、いたい、まぶしい…
「おめでとうございます!」