読了本-砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

 

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

A Lollypop or A Bullet

作・桜庭和樹

 

 

 

題名の通り、

砂糖菓子のように甘く、優しく、グロテスクな物語だ。

 

 桜庭和樹さんの小説を読んだのはこれが初めてだった。

 新聞記事からの抜粋から始まったこの物語は、妙にリアルで、それでいて分かりやすく変な登場人物に囲まれている。猟奇的で、現実には起こりそうもないことだからこそ、そこにあるのは気味が悪いほどのリアルなのだ。

 人は話せば分かる、この世界は美しい、そんな誰もが描きそうな淡い期待をぶったぎる。願いも期待も何にも届かない世の中はあるのだ。抜け出そうとする暗闇は足掻けば足掻くほどに濃く深くなっていく。そんな絶望を生き抜く小さな女の子の戦闘記だ。

 子供は大人に守られなくてはならないのだ。大人がただ歳を重ねただけの大きな子供だとしても、何も知らない愛と憎しみの区別のつかない幼い子供には、本書にもある通り「安心」が必要なのだ。

 

 かつての私がそうであったように、子供の認識できる世界は驚くほど狭く、そしてそこから出ることはそうとうに難しい。信じられるものは数えるくらいしかなく、頼れる人など一人でもいたら幸運なのだ。広い世界があるんだ、そこでは息ができなくても別にキミの生きられる場所があるから。

 ほとんどの子供に与えられる世界はひとつだ。一枚岩でつながっている。そこで受け入れられないと自分の価値を見失ってしまうのだ。だが、今や世界はグローバル化しどこにだって行ける、そう月にだって。そこがだめでもいいんだ。間違っても、転んでも、明日さえあれば、傷だって治るし、記憶は薄れていく。

 

 

 生きてほしい。死なないでほしい。

 この物語を読んで感じた一番強い感情だ。

 

 

甘い甘い実弾じゃない弾丸は彼女の中に生き続ける。

どこまでも不器用で大人になれなかった藻屑はついに自由を手に入れたのかもしれない。